科学体験で子どものワクワクが止まらない!子どもの主体性の尊重が重要 ~「かながわサイエンスサマー2024」参加者調査レポート~

子どもたちの体験格差や子どもの興味分野などが話題になる中、「いこーよ」の研究機関である「いこーよ子どもの未来と生きる力研究所」では、神奈川県の科学技術人材育成事業の一環として、神奈川県と連携し、調査を実施しました。本調査は、国立大学法人横浜国立大学 教育学部 久保尊洋先生の監修のもと、かながわサイエンスサマーに参加した子ども達への調査を実施しました。

その結果、かながわサイエンスサマーでの体験を通じて子どもたちの好奇心が刺激され、「もっと知りたい」という気持ちが高まることがわかりました。また、さまざまなことに興味を持つことが、子どもの体験活動参加への主体性とつながっており、「自分自身を成長させたい」という内発的価値(動機づけ)にもつながる可能性が示唆されました。

ポイント

かながわサイエンスサマーとは

かながわサイエンスサマー参加の子どもたちは科学への関心が非常に高い一方、ゲームや動画視聴への関心の高さも見られる

子どもが自分の「好きな活動」を見つけることが大切

子どもの「やりとげる自信」を育てるには、試行錯誤や挑戦する機会が必要

科学体験が子どもの成長や興味関心の広がりに与える影響は大きい

自発的に来場した子どもの方が、体験後に様々な成長効果がある

「自分を成長させたい」という思いや「やりたいことを選べている」かどうかが「子どもの情熱」のキーとなる要素

興味の幅が広いほど、体験活動参加への参加主体性や成長意欲が高い

まとめ

かながわサイエンスサマーとは

「かながわサイエンスサマー」とは、神奈川県が未来を担う子どもたちに科学の楽しさを伝え、親しんでもらうことを目的とした取り組みです。  

県内の科学館、大学、研究機関、企業等が開催する子ども向け科学関連のイベント情報を紹介するほか、科学館を複数訪問し、次世代のデジタル技術であるNFTによるデジタルスタンプラリーも同時に実施されました。

かながわサイエンスサマーについてはこちら

かながわサイエンスサマー参加の子どもたちは科学への関心が非常に高い一方、ゲームや動画視聴への関心の高さも見られる

まず、かながわサイエンスサマーに参加した子どもたちが、どのような分野に興味関心があるのか聞いた結果がこちらです。

出典:神奈川県・いこーよ子どもの未来と生きる力研究所分析
※興味ある分野(複数回答)とその中で最も興味ある分野(単数回答)の結果を一つのグラフに記載

今回の調査の対象が科学館や科学イベントに来場した子どもであることもあり、「天文・宇宙・気象・地学」や「ロボット・電子工学・ドローン・VR・デジタル技術・プログラミング」「動物・魚類・昆虫・植物」「科学・実験」「工作・ものづくり」などの科学技術や自然科学に関する分野への関心が高い結果となりました。

また、「読書・文章を書く」や「スポーツや体を動かすこと・スポーツ観戦」「アニメ」などのサイエンス以外の分野への関心も高くなっています。

一方、「ゲーム・eスポーツ」や「動画の視聴・配信」への関心も高く、さらに「最も興味ある」と単数回答での結果でもこの2分野は非常に割合が高いのが注目すべき結果となりました。

子どもたちが受動的にゲームや動画視聴をすることを懸念するだけではなく、それをきっかけにコンテンツ制作の創造的な力やプログラミングなどに関心を育む機会を作ることが重要です。また、さらに興味を深めたり、視野を広げたりできるコンテンツを科学館などの施設やイベントなどで提供し、能動的な体験活動にしていくことが求められます。

また、この子どもの興味分野のデータをより深く分析するためには、この結果をさらに幅広い子どもに聞いた調査結果と比較したり、今後どのように変化していくかなどの時系列分析をしていくことが必要でしょう。

子どもが自分の「好きな活動」を見つけることが大切

次に「子どもの情熱(※1)」について聞いた質問(※2)の結果がこちらです。

出典:神奈川県・いこーよ子どもの未来と生きる力研究所分析

情熱に関する項目に「当てはまる」と回答した割合はおおむね高く、とくに「一番好きな活動をしているとき、ありのままの自分でいられる」という項目が突出しており、子どもが自分の「好きな活動」を見つけることの大切さを再確認した結果となりました。

一方「一番好きな活動は学校や家でやらないといけないこととも両立している」が情熱項目の中では他の項目と比べて低い結果となったことも特徴としてあげられます。

さまざまな活動を両立できていないのは、子どもが自分で活動を選べてない可能性があると思われます。子どもの自主性の尊重など、親の子どもへの関わり方が大事といえるでしょう。

また「情熱の高い子ども」に、より充実したコンテンツを提供してその「情熱」により応えていくことが大事であるとともに「まだその情熱を持てていない子ども」にどうアプローチしていくかを考えていくことも、今後において重要です。

※1:「情熱」とは、人の行動の動機となるもので、悪い情熱(執着的なブレーキの利かない情熱)、良い情熱(他の活動ともバランスの取れた情熱)などを指す
※2:質問項目は横浜国立大学久保尊洋先生からご提供 

子どもの「やりとげる自信」を育てるには、試行錯誤や挑戦する機会が必要

子どもの「内発的価値(※3)や「基本的心理欲求(※4)」について聞いた質問(※5)の結果が以下です。

出典:神奈川県・いこーよ子どもの未来と生きる力研究所分析

どの項目も8割程度が「当てはまる」と回答しており、科学館や科学イベントに来ている子どもたちの「内発的価値(項目1~3)」「基本的心理欲求(項目4~6)」が高いレベルであることがわかりました。

一方で「たいていのことをうまくやり遂げる自信がある」だけ、他の項目と比べると「当てはまる」と答えた割合がやや低めでした。

「情熱」と同様、数値が低めである「子どもの自信」を育てていくためには、科学館などの体験施設や活動で、見て楽しむだけでなく、自分で試行錯誤することができたり、新しいことに挑戦でき、自信につながる体験になるような工夫が求められます。

※3:動機づけの元となるやりがいや面白さ、自己成長、他者貢献など自分の内面から生まれる価値や意味のこと
※4:自分の行動を自分で決められる自律性の欲求、自分の行動がうまくいっていると感じられる有能感の欲求、他者とのつながりを感じることができる関係性の欲求という、人の心の健康と成長に必要な3つの欲求のこと
※5:両方の質問項目は横浜国立大学久保尊洋先生ご提供

科学体験が子どもの成長や興味関心の広がりに与える影響は大きい

次に、科学館や科学イベントに参加した子どもたちに、体験後にどう感じたかについて聞いた質問がこちらです。

出典:神奈川県・いこーよ子どもの未来と生きる力研究所分析

「自分にとって新しい発見があった」「興味あることをさらに好きになった」等、科学館や科学イベントの参加を通じて、好奇心が刺激されるなどの大きな効果が見られました。

また、他の項目と比べるとやや低いながらも「将来の進路や職業のヒントになった」という効果も6割以上となっています。

科学が子どもの成長や興味の幅を広げる重要性をあらためて確認するとともに、将来や成長に役立つ経験が得られていることが明らかになりました。
体験後にどう感じたかについて聞いた2つ目の結果グラフがこちらです。

出典:神奈川県・いこーよ子どもの未来と生きる力研究所分析

「『ワクワクする!』『オモシロイ!』と思った」「まだ知らないことが色々あると思った」「新しいことにチャレンジしたことが面白かった」などの項目でほぼ100%近くの来場者が「そう思う」「まあそう思う」と回答しています。

一方で「自分は色々なことができると思える」「難しいことでも、失敗を恐れないで挑戦した」のような、困難にチャレンジして達成感を得ることに関する項目の数値は、他の項目と比べて低い傾向が見られました。これは、今回の体験施設での体験内容の難易度が理由ではないかと推測されます。体験内容が自分にとって達成可能な易しいレベルであると、「チャレンジした」と思えるような自信が育まれにくい可能性があります。

科学館や科学イベントのコンテンツも、自分にとってやや難しい内容を入れていくことで、子どもの自信を育む機会になっていくのではないでしょうか。

自発的に来場した子どもの方が、体験後にさまざまな成長効果がある

体験後の感想に関する質問について、自発的に科学館や科学イベントに来たかどうかで結果に違いがあるのかを以下のグラフで比較しました。

出典:かながわサイエンスサマー2024 いこーよ子どもの未来と生きる力研究所分析
出典:かながわサイエンスサマー2024 いこーよ子どもの未来と生きる力研究所分析
出典:神奈川県・いこーよ子どもの未来と生きる力研究所分析

グラフからは「自分でぜひ来たいと思ってきた」という子どもの方が、より高い体験効果があったことがわかります。

「進路や職業のヒントになった」の項目は、他の項目と比べて数値が低めでしたが、それでも自発的に来場した子どもの方が、そのように感じる割合は高くなっています。
なお、体験効果に関する全項目で、自発的に来場した子どもの方が、より高い体験効果を感じていることがわかりました。

子どもの「やりたい」を実現し、そのための場を提供することの重要性を再認識するとともに、子どもの興味を引き、成長を促す科学イベントやコンテンツを提供する重要性があらためて認識されました。

「自分を成長させたい」という思いや「やりたいことを選べている」かどうかが「子どもの情熱」のキーとなる要素

「子どもの情熱」「内発的価値」「基本的心理欲求」の情熱関連項目、また、体験後の実感に関する項目について、項目間の関係性を調べるために、それぞれネットワーク分析(※6)を試みました(横浜国立大学の久保尊洋先生分析)。

出典:神奈川県・横浜国立大学 久保尊洋先生分析
出典:神奈川県・横浜国立大学 久保尊洋先生分析

その結果、情熱関連項目として「子どもの情熱」と「内発的価値」、「基本的心理欲求」は、お互いに関係性があり、その中に特長的ないくつかのパターンがあることがわかりました。

例えば、各項目の中で中心的役割を担っている項目(=他の項目と関連が多い項目)は、子どもの情熱、内発的価値、心理的基本欲求の中では、「自分自身を成長させたい」「やりたいことを選べている」でした。つまり、自己成長を望む気持ちやや自己決定を支えることが、子どもの情熱のキー要素になる可能性があります。

また、体験後の実感に関する項目では、体験内容に「ワクワクする、オモシロイ!と思った」「将来の自分の進路や職業についてのヒントになった」などが中心的な項目であるという結果が得られました。これらの項目が体験後の実感の中核を担っている可能性があります。

※6:人や要素など様々な関連性を視覚化し、関係性の中心的役割になる項目や、それぞれの関係性の強さの程度などを把握する分析手法のこと。線はつながりを表し、線が太いほどつながりが強く、線が多いほど多くの要素とのつながりがあることを示す。

興味の幅が広いほど、体験活動参加への参加主体性や成長意欲が高い

さらに、ネットワーク分析で、子どもの習い事の数、体験の数、興味分野の数と、子どもの参加主体性の度合いや「自分自身を成長させたい」という意欲(内発的価値)との関連性を分析しました。

出典:神奈川県・横浜国立大学 久保尊洋先生分析

その結果、興味分野の数が多いほど(つまり興味の幅が広いほど)、体験への参加主体性が増し「自分自身を成長させたい」という内発的価値につながる可能性が示唆されました。

一方で、体験の数や習い事の数と内発的価値の間には、強い関連性は見られませんでした。つまり、体験や習い事の数が多いだけで、興味の幅が広がらなければ、内発的価値にはつながらないことが示唆されます。

まとめ

今回の分析で、子どもが自分の「好きな活動」を見つけることが、ありのままの自分でいられることにつながっているとあらためて確認しました。

また、「子どもの情熱」の項目の中では「やりとげる自信」が他の項目と比べて低いということもわかりました。子どもの「やりとげる自信」を育てるには、試行錯誤や挑戦する機会に触れることがとても重要だと思われます。

また、今回の調査の対象である科学館や科学イベントに「自分でぜひ来たいと思ってきた」という子どもの方が、新しい発見をする等のより高い体験効果があったという結果も得られました。

さらに、今回の調査から、興味の幅が広い子どもほど、体験参加への主体性が高く、成長意欲が高いこともわかりました。

このことから、子どもの「やりたい」を尊重し、サポートすることが、子どもの成長にとって重要であることがあらためて確認されました。

■調査概要
調査方法/インターネットアンケート
調査地域/神奈川県
調査対象/サイエンスかながわの3科学館とイベントに来場した小中学生(小学生は保護者が回答)
調査期間/2024年7月31日~2025年3月7日
サンプル数/117サンプル
 性別:男性58%、女性42%
 学年:小学低学年55%、小学高学年40%、中学生5%
調査分析/いこーよ子どもの未来と生きる力研究所
監修/横浜国立大学教育学部 久保尊洋先生

かながわサイエンスサマーの取り組み

■神奈川県ホームページ
 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/bs5/cnt/f7414/

■「いこーよ」内特設ページ
https://iko-yo.net/partners/science_kanagawa/events