ポイント
▶まとめ
小中学生の子どもたちが、地域活性を目的に農業をテーマにしたビジネスに挑戦するコミュニティスクール「ジュニアビレッジ」という活動があります。子どもたちは、正解のない地域課題解決をテーマに仲間と一緒に試行錯誤しながら、自分で未来を創るための様々な力をジュニアビレッジで培っていきます。
この活動のベースとなっているのが、「アグリアーツ🄬」という理念。「アグリアーツ®」とは、農業の教科、領域を横断的に学べる教育価値を捉え、子どもたちが農業を通じた協働探究で、地域や社会、世界とつながり、自分の未来を自分で創る力を身につける人材育成の理念のことです。
今回、ジュニアビレッジの体験の前後でこの「自分の未来を自分で創る力」がどのように変化するのかを、いこーよ子どもの未来と生きる力研究所が定量・定性的に調査し分析しました。
ジュニアビレッジは、部員である小中学生の子どもたちが 農業や仕事の経験を通して、自らの興味関心を探究する学びの場として運営されています。チームで取り組む経験や本気の農業ビジネスの体験をし、学校でも家庭でもない「第三の居場所 」として自分を認めてくれる場で、自分の考えていることを形にしたり答えのない問いかけに対して考える力を伸ばしながら、子どもたちが体験活動を行っています。
出典:ジュニアビレッジコーチコンセプトブック
アグリアーツ力は大きく分けて10分類×3項目の30項目あります。この10分類を、いこーよ子どもの未来と生きる力研究所が提唱する未来を生きる力である「3つの力」に再分類し、時間管理力とプレゼンテーション力をスキル力としてまとめて加えた4つの力として、今回分析を行いました。
出典:ジュニアビレッジコーチコンセプトブックをベースにいこーよ子どもの未来と生きる力研究所編集
この4つの力が、ジュニアビレッジの1年間の体験の前後で、どのように変化したかを計測しました。(グラフの青い線は体験前、赤い線は体験後の数値)
まず、体験した子どもたちの数値を見てみましょう。
この結果によると、4つの力すべての項目で、体験後に子どもたち自身による自己評価が下がっていることがわかります。特に、スキル力(時間管理力・プレゼンテーション力)において、大きく数値が低下しています。
子どもたちは1年間を通して、今まで家庭や学校では体験してこなかったような、自分で考え、判断し、自分で仲間や周囲の人たちに働きかけて目的を達成するような活動を日々試行錯誤しながら体験したと思われます。その結果、それをすることの難しさ、大変さを体感し、自分の力不足や経験不足を改めて認識した、いわゆるダニング=クルーガー効果 (※)が起きていることが数値に表れたと推測しています。
※ダニング=クルーガー効果とは、自分の能力を正しく自己認識できず過大評価してしまう認知バイアスの一つで、無能な人間ほど自己評価が高くなり、有能な人間ほど自己評価が低くなるという現象のことです。ダニング教授とクルーガー教授によって1999年に提唱されました。
出典:ジュニアビレッジ部員向けアンケート (2023年度)
それを裏付けるもう一つのデータがあります。
次のグラフは、体験した子どもたちの保護者に聞いた体験前後の調査結果です。
このグラフをみると、自知力を除く3つの力において、大きく数値が向上していることがわかります。
つまり、前述の子どもたち自身の自己評価では、体験前よりも体験後の方が全体的な数値が落ちていますが、保護者から見ると 、子どもたちの変化を確実に感じ取っている様子がうかがえます。特に相手のことを思う力、相談・助け合う力、話し合いをまとめる力といった他尊力で大きな成長を感じていることがわかります。
ジュニアビレッジの1年間を通した仲間との協働作業が、このような他尊力の成長を保護者が感じているベースとなったと思われます。
出典:ジュニアビレッジ部員の保護者向けアンケート (2023年度)
1年を通して、実際にどのような成長実感があったのか、調査に寄せられた子どもたちのコメントを見てみましょう。
子どもたちからは、実際に農業や販売活動を行うことで得た気づきや、仲間と一緒に物事を達成することについて成長の実感があったという回答が多く記述されています。
また、この自由回答からも、ダニング=クルーガー効果といえるような自分の力不足や実現の難しさにあらためて気づいたといった感想も見られます。
【成長実感・将来への抱負】
● たくさんの仲間と出会い、多くの経験を共にしてきたことで、課題解決や論理的思考、プレゼンテーションなどの面で大きく成長することができたと考えています。
● ジュニアビレッジをやってふつうはではできないような経験ができてよかったと思うし、少しでもたくさんの経験ができて将来の夢に少しでも近づけたと感じた。
● (次年度は)もっと積極的に発言をしたり、率先して動いたり、他の部員を思いやった行動をしたい。
【地域、農業、会社経営などに関する気づき・「自分ごと」化】
● 農業は初めての体験で種まきや水やり、肥料やりと大変な事を繰り返し繰り返し行った。面倒くさい!と思う時もあったが、それでも野菜達に愛情を注ぐ事によって、夏にはスーパーの物とは比べ物にならない程、大きなキュウリやナスが育った。その時、今までの努力が積もって実ったんだと思った。野菜を収穫した時にはみんな笑顔でいて、農業は人を笑顔にするのだと思う私の顔からも笑顔が溢れた。
● 「地域の資源」を「地域」で活用していくことが販路拡大や知名度向上につながると思う。
● 商品の陳列やお客様に購入してもらった商品を袋に入れて渡すところまでの流れがとても楽しかったです。商品のパッケージを考えるのもとても好きでした。
● 販売をする時はお客様側に立って考える事、つまり相手の立場にたって接することが大切だと思った。相手がどう感じるかをこちら側から感じ取ることが大切だと思う。
【力不足や難しさを痛感】
● 販売会で、接客を体験して、人に商品を売る事の難しさが分かりました。
● 会社をやるときに「何かこうやりたい」と言うことがあって、話し合うときにみんなの意見を尊重しながらまとめるのがすごく難しいと感じた。
● ジュニアビレッジの活動をやってみて、「こうやって世の中が回っているんだな」「誰もこうしなかったら世の中は…」ということや、「なるほど! そうしたら利益を上げられそう!」ということを感じた一方で、「なんかみんなバラバラじゃない? もっとこうしたらいいのに…」「もっとここをこうしたらコストを下げられるのに…」ということを感じて、そのことをみんなに言いたいけれど、言いにくくて、どうしたらいいのか考えている自分もいました。
続いて保護者からのコメントも見てみましょう。
挑戦の連続で自信がついた、仲間とともに活動することで相手のことを考える力が向上した、といったコメントが数多く寄せられていました。また、ジュニアビレッジは学校や学年が異なるメンバーと交流する「第三の居場所」にもなっているようです。
【挑戦の連続が自信につながった】
● 自分の考えや意見を人前でも自信を持って話せるようになった気がします。
● 人前で話すことへの自信が少しついたように感じています。
● 自信をもって何事にも挑戦するようになった
● ジュニアビレッジの活動は、娘にとって、挑戦したことのない挑戦の連続で自信につながっていると思います。そのせいか、娘が自分で判断して行動する場面が増えたと感じています。大きな学びだと思います。
● 結果は抜きに、まずやってみようという気持ちが大きくなったように感じられる。
● 責任を持って自分の仕事ができるようになったかと思います。
● 考えているだけでなく、行動して、他者に働きかけていくことができるということを、体験を通して知ることができた。
● コミュニケーション力の向上。意見をまとめて発表する力。自分の意見を堂々と発表できる度胸。
● ビレッジでの経験が学校生活でとても活かされて自分でも変われた!と感じているようです。
● 人前で積極的に自分の意見を言う事ができるようになった。
● 自分から発言するようになった
● 人前で積極的に発言する力
【相手のことを考えて行動できるようになった】
● 農業や販売の経験ももちろんですが、親ではない大人や、元からの友達ではない子ども達との協力や関わりにおいて、自分がどの様な存在になれるのか、なりたいのか、役に立つのか、など考える事ができたと思いますし、人の意見を聞き、皆で考える、行動する、という事に意識を持てたなら、成長になったのだと思います。
● 学校生活とは違った、何かを作り上げていくことや、販売会などの活動のなかで、仲間たちと協力していくことを学べたと思います。
● 以前よりも、周りの人達の事を気づかって関わる事が出来るようになった。
● 販売する上で、どのような伝え方がよいか相手を考えて接客する態度
● ざわざわしてまとまらない時間が時々あったそうで、でも怒らず、様子を見ながら話を聞いてまとめていくことが出来たようです。
● 周りの人と調整する能力が強化された
【居場所になった】
● 今まで休日は予定が無いとダラダラと過ごしてしまうことが多かったのですが、ジュニアビレッジの活動に参加することでメリハリが出来ました。何より本人が楽しそうに取り組んでいて、リフレッシュにもなっているように感じています。
● 自分自身の居場所の一つとして認知しており、積極的に活動に参加している。子どもたちによる活動ということを認識し、他の部員の状況を見つつ、自身の役割を全うしようと取り組んでいる。
● いろいろな学年の人と交流ができ、学級活動とはちがう、おもしろさを感じていた様子。
今回のアグリアーツ🄬力の調査を通じて、「ジュニアビレッジ」の「仲間とともに農業ビジネスに挑戦する」という1年間の活動が、子どもたちにとって成長の機会となっていることが明らかになりました。
調査結果のポイントの一つは、アグリアーツ🄬力について、子どもたちの自己評価が一度落ち込むという変化が見られたことです。経験したことのない挑戦の連続の中で自らの力不足や困難に直面したことで、自己評価が下がってしまったのではないかと推測しています。
データとしてはスコア低下になりましたが、体験後の子どもたちのコメントを見ると、実体験に基づく確かな学びを得て自分の成長を実感している様子が伺えます。
もう一つのポイントは、保護者の視点では子どもたちの成長が実感されており、子どもたちの自己評価が下がった傾向とは違いがみられることです。
日々の生活で子どもたちを間近に見ている保護者にとっては、体験を通じて子どもたちが自分の力不足を実感し、そこから学びを得ている姿が感じられているのだと推測されます。
特に、このジュニアビレッジの活動では、子どもたちが仲間との協働を通じて自信を深め、また周囲を思いやる姿勢を育んでいることが保護者の目線から実感されています。
また、ジュニアビレッジは、地域で子どもたちの成長を支える「第三の居場所」として、子どもたちの「自分の未来を自分で創る力」を育む場となっている様子が見られます。昨今希薄になってきていると言われている、子どもたちの異年齢交流の経験や、子どもにとっての複数の居場所としての機能をジュニアビレッジが果たしていると言えるのではないでしょうか。
今回、調査設計等の理由で、参加している子どもの年齢や参加年数での分析ができなかったため、今後はその視点での調査や分析も実施していく予定です。
■調査概要査方法
調査方法/インターネットアンケート
調査地域/静岡県菊川市、浜松市、神奈川県横浜市、横須賀市
調査対象/2023年度ジュニアビレッジ部員(子ども)とその保護者
調査期間/体験前:2023年7月27日~8月19日、体験後:2024年3月26日~5月24日
サンプル数/体験前:部員(子ども)31サンプル 保護者36サンプル
体験後:部員(子ども)25サンプル 保護者30サンプル
調査設計/グローカルデザインスクール株式会社(ジュニアビレッジ運営会社)
調査分析/いこーよ子どもの未来と生きる力研究所
ジュニアビレッジの詳細はこちら
いこーよ子どもの未来と生きる力研究所のアグリアーツ®×ジュニアビレッジ研究室の詳細はこちら