保育施設の事故を防ぐカギは「保育士同士の人間関係」? アンケート調査から見えた安全な保育の秘訣
近年、保育施設での事故件数が増え続けています。2021年に1,867件だった報告件数は、2024年には2,426件にまで増加しました(※いずれも乳幼児の保育・就学前教育施設が対象)。「どうすれば子どもたちを事故から守れるのか…」。その答えを探るべく、今回の研究グループはある着目点に辿り着きました。それは「保育士同士の人間関係の質」です。
いこーよ 子どもの未来と生きる力研究所の石川大晃研究員、玉川大学教育学部の山田徹志准教授、プラムネット株式会社子ども安全共育事業部の渡辺直史総括リーダーによる研究グループが、実際に保育現場で働く方々を対象にアンケートを実施。分析の結果、「保育士同士の関係性がどうあるか」が、子どもの安全を左右する重要な要素であることが明らかになりました。
9割以上の保育者が「人間関係が事故に影響する」と実感
まず研究グループは、保育現場で働く方々に「職場の人間関係が保育の事故やヒヤリハット(※)にどれくらい影響すると思うか」を聞きました。
※ヒヤリハットとは……「ヒヤリとした」「ハッとした」という、事故にはならなかったものの、一歩間違えれば怪我につながりかねないできごとのこと。事故を未然に防ぐための重要な情報源として、保育現場では積極的に記録・共有することが推奨されています。
その結果は次の通りです。
・「影響を与える」……約76%
・「どちらかといえば影響すると思う」……約21%
合わせると、96%以上の方が「人間関係が子どもの安全に関わっている」と感じていることがわかりました。年齢・経験年数・役職に関わらず、ほぼ全員が同じように実感しているという点も大きな特徴です。
子どもの安全を守る「良い人間関係」5つのポイント
次に研究グループは、アンケートに寄せられた保育者の自由記述(自分の言葉で書いた回答)を丁寧に分析しました。そこから浮かび上がってきたのが、人間関係の質を決める「5つのポイント」です。
この5つは、うまく機能すれば安全を守る「支え(促進要因)」になりますが、逆に機能しなくなると安全を脅かす「落とし穴(阻害要因)」にもなりえます。いわば「両刃の剣」のような、非常に重要な要素です。
① 心理的安全性
「なんでも言い合える安心感」を指します。対人関係の悪化を恐れず、気になることを率直に伝えたり相談したりできる関係性のことです。
② 連携・協働
保育士同士で保育の考え方をすり合わせ、声を掛け合いながら協力して進める実践的なチームワークのことです。
③ 意思疎通
日頃から頻繁にコミュニケーションを図ることや、保育中のこまめなやり取りによる相互理解を指します。
④ 環境設定
保育に関して、定期的に振り返る場があるなど、チーム内で情報共有ができる組織的な仕組みや職場環境のことです。
⑤ 資質能力
「保育者一人ひとりの安全への意識とプロとしての責任感」のことです。
人間関係が悪くなると何が起きる?
では、上記の5つが機能しなくなると、現場ではどんなことが起きるのでしょうか。研究から見えてきた「危険なサイン」を3つ紹介します。
①「報告しづらい空気」が生まれる(心理的安全性の低下)
事故やヒヤリハットが起きたとき、「誰が報告書を書くの?」と責任を押し付け合ったり、報告しようとすると嫌な雰囲気が漂ったりする職場になってしまいます。こうなると問題が表面化せず、「隠ぺい体質」が生まれます。
②「誰かがやってくれるはず」という思い込みが生まれる(連携・意思疎通の不全)
日々のコミュニケーションが少ない職場では、小さなリスクを誰も拾えないまま見逃してしまいます。ただ仲が良いだけで実質的な連携が取れていないと、「誰かが見ていてくれているはず」という相手への「過信」が生まれ、かえって事故が起きやすくなります。
③「安全の基準」がバラバラになる(資質能力・意思疎通の不足)
保育士同士で安全への意識や判断基準にズレがあると、「あの程度なら大丈夫」など認識の差があるまま保育する状況を生んでしまうことがあります。こうした「安全観のズレ」が、思わぬヒヤリハットにつながります。
まとめ
今回の調査から見えてきたのは、「保育士同士が仲良くする」だけでは不十分だということです。
安全な保育を実現するためには、まず「話しやすい雰囲気(心理的安全性)」と「話し合うための仕組み(環境設定)」という土台が必要です。その上に一人ひとりの「安全への高い意識(資質能力)」が乗ることで、初めて日々の「こまめなやり取り(意思疎通)」や「助け合い(連携・協働)」がうまく機能し、安全な保育の実践へとつながります(下図参照)。
逆に言えば、これらのどれか一つが欠けても、事故リスクは高まります。報告しづらい空気、過信、認識のズレ——こうした「機能不全」に組織として手を打てるかどうかが、保育施設づくりの要だと言えるでしょう。
今後の課題
今回の研究には課題もあります。対象者数が29名と限定的であること、また「人間関係が安全に影響する」と日頃から感じている方の回答が多く集まりやすいというバイアスがかかっている可能性があります。今後はより大規模な調査を行い、結果の信頼性を高めていく予定です。
調査概要
論文名: 保育の安全と保育者間関係の質 ―現場職員の自由記述のアンケート調査を元にした探索的検討
掲載誌:早稲田大学 幼児教育開発研究所紀要 第4号(2026年3月31日発行)
調査対象:プラムネット株式会社のメーリングリスト登録者および同社の保育者研修参加者のうち有効回答を得た29名
調査期間:2024年7月〜2025年4月
調査方法:現職保育者を対象としたWEBアンケートデータの分析
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