中国からの訪日客が急増中、インバウンド市場は8割まで回復~出国客の回復は物価高や円安の影響もあり足踏みに~

今夏、街中や観光地では日本人観光客だけでなく訪日客の姿も多く見られました。そこで前回につづき、現在訪日客はどの程度なのか、また国別に見た訪日客の数の状況、さらに日本からの出国者の状況はどう変化しているかまとめました。
(前回のインバウンドについてのレポート記事はこちら

ポイント

夏にかけ訪日客の推移はさらに上昇、2019年比の8割まで回復

中国からの訪日客は夏にかけ急増

出国日本人数は徐々に増加傾向ではあるものの2019年比の5割程の水準にとどまる

まとめ

夏にかけ訪日客の推移はさらに上昇、2019年比の8割まで回復

まずは訪日外客数の推移を見てみましょう。(訪日外客数とは、日本を訪れた外国人旅行者数のことで、法務省集計による出⼊国管理統計に基づき日本政府観光局が独自に算出しています。詳しくは日本政府観光局のサイトを参照ください)

以下は、2019年1月から2023年7月までの訪日外客数をいこーよ総研がグラフにしたものです。

2022年9月に日本政府の水際対策が緩和されてから、訪日客は順調に増加の一途をたどっています。今年の5月から7月にかけてもその推移はとどまることなく、さらに上昇し続けています。

出典:日本政府観光局(JNTO)発表のデータをもとにいこーよ総研でグラフ作成
注:2023年5月以前の数値は訪日外客数のうち観光客数で作成
2023年6月以降は訪日外客数総数の推計値で作成

つぎのグラフは、2022年~2023年の訪日外客数を2019年の同月と比べた割合をグラフにしたものです。

今年の春の行楽シーズン以降、訪日客は2019年比の6割以上まで戻ってきており、順調な回復を見せています。夏にかけて、その推移はさらに高まり、7月には2019年比の80%を超えるレベルにまで回復してきています。

出典:日本政府観光局(JNTO)発表のデータをもとにいこーよ総研でグラフ作成
注:2023年5月以前の数値は訪日外客数のうち観光客数で作成
2023年6月以降は訪日外客数総数の推計値で作成
2023年1月以降は2022年の同月ではなく2019年の同月と比較

中国からの訪日客は夏にかけ急増

次に、国別の訪日外客数の推移を見てみましょう。2022年7月からの1年間、月ごとにどの程度訪日外客数が変化しているかを見ていきます。

2022年9月以降、韓国の訪日外客数が大きく伸びており、他の国よりも圧倒的に多い状況でした。今年に入ってから3月頃まではその伸び率も落ち着いていましたが、4月以降は再び増加し続けています。

次いで台湾も、2022年秋以降今もなお増加している状況です。

注目の中国についてです。厳しい水際対策が取られ長らく訪日客が低迷していた中国ですが、2023年3月以降は個人旅行を中心に徐々に増加してきました。そして、中国からの入国者に対する日本での水際対策が緩和された5月以降からはその推移は急増し、7月にかけて台湾にも迫る勢いで伸びてきています。

さらに中国政府は中国人の日本への団体旅行を8月10日から解禁しました。いよいよ中国からの訪日客が回復の兆しを見せはじめた矢先、福島の処理水に対する中国側の対応で、中国人訪日旅行客のキャンセルも出始めていることがわかりました。今後もその動きが拡大していく可能性があります。

出典:日本政府観光局(JNTO)発表のデータをもとにいこーよ総研でグラフ作成

国別の訪日外客数を2019年1月~7月期、2023年1月~7月期でそれぞれまとめ、比較したものが次のグラフです。

訪日客が急増している中国も、圧倒的最多であった2019年と比べるとまだまだ及ばずという状況でした。韓国、台湾も2019年と比べるとまだ少ない水準です。

一方、他の国を見てみると、2019年とほぼ同じ水準まで戻っていることがわかります。米国については、2019年を上回る訪日数となりました。

出典:日本政府観光局(JNTO)発表のデータをもとにいこーよ総研でグラフ作成

出国日本人数は徐々に増加傾向ではあるものの2019年比の5割程の水準にとどまる

続いて、出国日本人数を見ていきます。(出国日本人数とは、海外に渡航した日本人の数です。 当該月の翌月に、法務省の出入国管理統計からJNTOが独自に算出し、訪日外客数と併せて発表しています。詳しくは日本政府観光局のサイトを参照ください)

以下は、2019年1月から2023年7月までの出国日本人数をいこーよ総研がグラフにしたものです。

激減していた出国日本人数も夏にかけて少しずつ増えており、今年の7月にはようやく推定で80万人を超えています。

出典:日本政府観光局(JNTO)発表のデータをもとにいこーよ総研でグラフ作成
注:2023年7月は出国日本人数の推計値で作成

以下は、2019年の同月と比較した割合のグラフです。

今年の5月以降増えてきてはいるものの、7月でも2019年比の5割程で「回復している」とはまだ言い難い状況です。

以前調査した海外旅行についてのユーザーアンケート結果を見ても、海外旅行への意向が大きく高まってきている様子はあまり見られず、物価高の影響で海外旅行を避けている人や、「国内旅行を優先したい」という人が多いという結果でした。昨今の円安も海外旅行に二の足を踏んでいる一つの要因と思われます。

しかしながら、前述のアンケート結果で海外旅行を予定している人に今後行きたい時期について聞いたところ「2023年8月」という回答が多く見られました。2019年のグラフを見ても、8月は1年のうちで最も出国日本人数が多い時期です。今年の8月を皮切りに、出国日本人数が増えていくことも期待されます。

出典:日本政府観光局(JNTO)発表のデータをもとにいこーよ総研でグラフ作成
注:2023年1月以降は2022年の同月ではなく2019年の同月と比較
2023年7月は出国日本人数の推計値で作成

まとめ

訪日外客数は順調に増加の一途をたどっており、今年の7月には2019年比の80%を超えるレベルにまで回復していました。

国別の訪日外客数を見ると、韓国が他の国に差をつけ最も多く、次いで台湾が続いています。今もなおその推移は増加している状況です。

低迷していた中国からの訪日客も、水際対策が緩和された5月以降は急増しています。日本への団体旅行も解禁され、夏以降はますます増えることが予想されていました。しかし、福島の処理水による中国政府の対応により、日本への団体旅行がキャンセルされるなど、中国人観光客の訪日にも影響が出始めています。

訪日外客数上位10ヵ国の1月~7月の訪日外客数を見てみると、中国、韓国、台湾以外の他の国は、2019年とほぼ同じ水準まで戻っています。とくに、米国については、2019年を上回っています。

出国日本人数については、増加してきているものの2019年比の5割程度にとどまり、完全には回復しきれていません。これは「物価高の影響」や「国内旅行を優先したい人が多い」という要因のほか、円安の影響なども考えられます。

これから秋の行楽シーズンを迎えます。今後もインバウンドやアウトバウンドなどの状況を含め、お出かけ市場の動向を注視していきたいと思います。